介護中の事故で多いのは、薬を間違えて飲んでしまう誤薬、車椅子やベッドなどからの転落、転倒など。事故が起きたら他の業務に優先して、事故報告書を作成します。
怖いのは、事故が起きたそのときはなんともなかったのに、あとになって頭痛や意識障害などの症状があらわれるとき。さかのぼっての事実確認のためにも、事故報告書はとても重要な存在です。
まちがった書き方、あいまいな書き方をしていると、あとでトラブルになることも。介護事故の状況を正確に伝え、その後の事故リスクを減らしていくための、正しい書き方をお伝えしていきます。
書くタイミングは、遅くとも1週間以内を目安に
まず「事故報告書はいつ書くべきか」ですが、事故発生から数日以内を目安に、他の業務に優先して作成しましょう。具体的には下記のような流れになります。
- 介護中に事故が起こったら、ただちに救急車を呼ぶなど必要な緊急対応をとる
- できるだけ早くサービス責任者に報告を入れる
- 報告を受けた責任者は、その日のうちに家族、ケアマネジャーへ概要を報告、骨折などの場合、翌日には市町村へも報告(一次報告)
- 関係者が集まって事故の検証を行い、その内容をもとに事故報告書を作成
- 事故報告書をもとに家族や行政に報告をして、ケアプランや業務の見直しに役立てる
(1)〜(5)は3日〜1週間以内を目安に行います。
いったん報告書を書き上げた後も、家族への報告内容や、やりとりの経緯、その後どのような対応を行ったかを、そのつど事故報告書に追記していきましょう。
事故報告書のフォーマット(様式)
事故報告書のフォーマット(様式)に盛り込むべき重要な項目は、下記のようなものになります。場合によっては裁判になることもありますから、それぞれできるかぎり正確に記入することが大切です。
- 利用者の氏名
- 発見者、報告者の氏名
- 日時(発生時刻、発見時刻、検証を行った日時、報告書を作成した日時)
- 事故発生時・発見時のケガ等の状況
- ただちに行った対応
- 発生原因
- 再発予防策
- 家族への報告、その後の対応
書き方のコツは「箇条書き」&「時系列」
誰が見てもわかりやすく書くコツは、時系列で(物事が起こった順に)、箇条書きにしていくこと。はっきり特定できない場合や推定の場合は、文末に「(推定)」と書き添えておきます。
原因は、スタッフの人為的なミス、設備の不良、利用者側の要因など、いくつかの角度から探るようにします。
「単なる不注意」という原因しか見つけられないと、その後も同じようなミスを防ぐことができません。できる限りすべての原因を洗い出していきます。以下でケース別に例を挙げていきますので、参考にしてくださいね。
介護事故のケース別、書き方の具体例
誤薬
高齢になるほど持病が増えるなどの理由から、常用する薬が増える傾向にあります。それぞれに飲み方があったりすると、正しく飲むのも大変。最近は介護事故でも「誤薬」が増えています。
【記入例】
●事故発生時・発見時の状況
夕食後に飲むべき薬を間違えて、朝食後に飲ませてしまった
●ただちに行った対応
- 薬を飲んだ直後に気付き、医療職へ報告、バイタルを測定。体温:○℃、血圧:○○、脈拍○○・・・(担当者名、時刻)
- 30分後のバイタル:体温:○℃、血圧:○○、脈拍○○・・・
- 気分は悪くないかを確認、「大丈夫」と回答あり(担当者名、時刻)
- 見守りを頻回にするよう申し送り(担当者名、時刻)
●発生原因
- 通常は担当者が仕分けをした後、別の職員が1.○○○○、2.○○○○の手順でチェックを行っているが、1の手順が守られていなかった
- 2の手順の時にも名前の確認だけで、朝食後なのか夕食後なのかまではチェックしていなかった
●再発予防策
- 手順1と2を再確認し、担当者の判断で省略することがないように徹底する
- 名前以外にも、朝食後か夕食後かなど、飲むタイミングについても確認を行う
転落、転倒
ベッドや車椅子からの転落、歩行時によろけて転倒などは、介護事故の大多数を占めます。高齢者は加齢により骨がもろくなっていて骨折しやすいため、十分に気をつけたい事故です。
【記入例】
●事故発生時・発見時のケガ等の状況
- ベッドから車椅子に移乗介助をするにあたり、「車椅子に移りますよ」と声かけをしたところ○○さまから「はい」と返答があった
- 移乗中利用者の体重を支えきれず、車椅子への座り方が浅すぎたため前のめりに転倒
- 移乗時、ベッドと車椅子の間に10センチ程度の距離があった
- 転倒後、意識ははっきりしていたが、足の付け根に痛みを訴えられた
●ただちに行った対応
ただちに受診し、大腿骨頸部骨折と診断された(担当者名、時刻)
●発生原因
- 大柄な利用者を小柄な職員一人で介助していた
- ベッドと車椅子をぴったりとつけていなかった
- 事前の声かけが不十分で、利用者をうまく誘導できていなかった
●再発予防策
- 大柄な利用者を介助する場合、職員2人体制で介助する
- ベッドと車椅子の位置関係を確認することを徹底する
- 事前に利用者にも、具体的にどのような手順で移乗するかを説明しておく
むせこみ、誤嚥
食べ物が気管に入ってしまうと、それが原因で肺炎を起こすこともあります。飲み込む力が弱まっている利用者の場合は、食事の形態に配慮しつつ、飲み込むまでしっかり見守ることが必要です。
【記入例】
●事故発生時・発見時の状況
- 夕食の食事介助中に、2センチ大のジャガイモの煮物を介助し、飲み込みを確認
- その後他の利用者に呼ばれたために30秒ほど目を離したところ、激しいむせこみがあった
- 背中をさすりながら「○○さん、しっかり咳をして、出してください」と声をかけ続けた(○○秒程度)
- むせこみが落ち着いた後、とろみをつけたお茶を一口飲み、主食を1/3、副菜を2/3残して食事を終えた
- むせこみが落ち着いた後、気分は悪くないかを確認、「大丈夫」との回答あり(時刻)
- 意識ははっきりしていたが、食欲はなく、やや疲れた様子
●ただちに行った対応
- 医療職(担当者名)へ報告(時刻)
- 栄養士(担当者名)、調理スタッフ(担当者名)に報告(時刻)
- ○時○分の見回り時、特段の変化なくお休み
●発生原因
一瞬目を離したすきに、自分で食べたものが気管に入り、むせたと考えられる
●再発予防策
- 栄養士と相談し、食事の状態を検討する
- 食事中は嚥下に不安のある利用者から目を離さないようにする
- 他の利用者に呼ばれた場合は別の職員が対応できるよう、事前に連携しておく
物損事故
とくに訪問介護で件数の多い事故が、掃除中に棚のものを落として壊してしまうなどの物損事故。本人や家族に「気にしないで」と言われたとしても、きちんと文書で報告をします。
【記入例】
●事故発生時・発見時の状況
- 利用者宅で昼食後の食器洗い中、利用者から「○○さん」と声をかけられた
- 手に持っていた白い直径20センチ大の皿を落として割ってしまった
- ただちに破片を片付け、利用者に報告した
●発生原因
- 利用者に声をかけられたため、急いで洗い物を終わらせようとした
- 作業スペースが狭く、作業がしづらかった
●ただちに行った対応
- 利用者へ報告(時刻)
- 破片の片付け(時刻)
●再発予防策
- 作業中に声をかけられた際は、いったん作業を中断して対応する
- 作業前にできるだけ片付け、スペースを確保する
事故報告書の本当の目的は
事故報告書の目的は、本人に反省を促すことでも、家族に謝罪をすることでもありません。同じような事故を繰り返さないよう、業務を改善することです。
そう考えれば、下記のような書き方では役に立たないことが分かるのではないでしょうか?
【NG表現の例】
×・・・「目を離したすきに」「不注意で」
×・・・「以後十分注意します」「今後は気を抜かないようにする」
事故が起こった原因をしっかり捉えることができれば、それを取り除くことで再発を予防できます。原因がチェック漏れによるものなら、再発予防としてチェックを強化、徹底する。その場に手すりがなかったことが一因なら、今後は手すりのある場所で行う、新たに手すりを付けるなど。
きちんとした原因と再発予防策の検討こそ、事故報告書の目的です。とはいえ、介護職に就いたばかりの初心者さんが当事者だった場合、いろいろな角度から本当の原因を探るのは難しいですね。
そんなときは、もちろん自分でもよく検討することは必要ですが、当日の現場リーダーに確認してもらうなどして、上の視点からチェックしてもらいながら書き進めましょう。
事故報告書は「事故の当事者に書かせるもの」ではなく、「関係者全員で原因と予防策を考えるもの」。事故当時の詳細は当事者に聞かなくてはわかりませんが、それ以外の項目は本来むしろ、現場リーダーが担当するくらいに考えておきましょう。
正しい書き方でリスクは減らせる
介護保険法で事業者が市町村への報告を義務づけられているのは、骨折などの重大事故等。打撲やすり傷など軽いケガの場合はとくに報告の必要はありません。
そのせいか、ケガがあれば「事故報告書」、ケガがなければ「ヒヤリハット報告書」などという使い分けもあるようですが、これは問題のある考え方。そのときは元気でも、後になって症状が表れることもあるからです。
ケガはなくても転倒などのアクシデントがあれば、事故報告書を作成して情報を共有し、再発を防ぐことが大切です。
正確に、客観的に書くコツは、箇条書き&時系列で書くこと。必要項目を盛り込んだフォーマットにコツをおさえて書き込んでいくと、それほど時間をかけずに作成できるはずです。
リスクを減らすヒントが詰まった事故報告書を、最大限に活用してくださいね!