ヘルパーがやってはいけないことの断り方 身体介護編

使えるハウツー

訪問介護士ができないこと

利用者さんのご自宅に訪れ、介護サービスを行う訪問介護士(ホームヘルパー)。介護保険によって「やっていいこと」と「やってはいけないこと」がしっかりと分かれています。でも、そんなことを知らない利用者さんから「あれもお願い、これもお願い」と頼まれることもあるのが現実。「決まりですので」と断ったら、利用者さんが怒り出してしまったというケースもよく耳にします。

「やってはいけないお願い」をされたときに、どう断ればいいのか悩まれている介護士の方のために、実際にあったお願いをもとに、トラブルが起きない断り方を解説します。

身体介護で「やってはいけないこと」と上手な断り方

入浴介助や排せつ介助に代表される身体介護。利用者さんのからだに直接触れる介護や、自立支援のための見守りを目的とします。

一瞬の不注意が利用者さんのケガにつながりかねないので、常に利用者さんのからだを気遣った介護のしかたが必要になります。「やってはいけないこと」を勝手におこなうと、思わぬ事故につながってしまうかもしれません。利用者さんのからだを守るという意味でも「断ること」は大切です。

具体的に「やっていいこと」「やってはいけないこと」を見てみましょう。

身体介護の「やっていいこと」「やってはいけないこと」
「やっていいこと」 「やってはいけないこと」
食事介助 医療行為
清拭、入浴介助 散髪
排泄介助、おむつ交換 髭剃り
(電気シェーバーは〇、カミソリは×)
起床・就寝介助
服薬の介助(見守り) マッサージ、リハビリ補助
*爪切り
(ただし巻き爪や皮膚疾患をお持ちの場合×)
移動介助(体位変換、室内移動)
車椅子等への移乗
医薬品服薬介助
※たんの吸引や経管栄養
(特別な研修を受けた場合のみ〇)
体温測定
自動血圧計による血圧測定

では、「やってはいけないこと」をお願いされた時にどう断ればいいのか、実際にあったケースごとに解説していきます。

手を添える

CASE1.「便が出ないから摘便をしてほしい」

便秘で悩まれている利用者さんから、浣腸や座薬を使ってくれとお願いされたことはありませんか?市販の浣腸や座薬の使用は医療行為にはなりませんが、利用者さんの安全を考えて「やってはいけないこと」としている事務所もあります。それに対し、摘便は医療行為のため、どの事務所でもできません。排せつは生きるために大切なことですから、できる範囲でしっかりサポートしてあげましょう。

断り方の例:「医療行為になるためできませんが、お腹を温めておきますね」
「やってはいけないこと」という旨は必ずお伝えして、こちらができることを提案します。
60℃くらいのお湯でタオルを絞り、温度のチェックをした後に利用者のお腹の上に置いてあげましょう。お腹を温めることで、腸の動きが活発になり便が出やすくなります。また、おならも出しやすくなり、お腹に溜まったガスが抜けるので「楽になった」と言われることが多いです。

CASE2.「床ずれ(褥瘡:じょくそう)の処置をしてほしい」

寝たきりの方に多いのが床ずれです。床ずれに限らず、傷口の消毒や外用薬の塗布は医療行為になるためできません。軽い傷の場合はバンソウコウや包帯での手当が可能ですが、床ずれのような大きな傷になると、ガーゼ交換や水洗いといった応急処置しか許されません。こちらの場合もまずは自分ができることを提案しましょう。

断り方の例:「傷口のところをきれいにしておきます。あとは訪問看護師に伝えておきますね」
傷口に触れないようにまわりをきれいに拭き、訪問看護師へ連絡。赤くなっているなら保湿剤を塗って処置をしてから、訪問看護師に伝えましょう。早期発見ができれば利用者さんも安心です。

CASE3.「爪を切ってほしい」

爪切りは基本的に「やっていいこと」ですが、巻き爪や皮膚疾患をお持ちの利用者の場合は話が変わります。ほかにも、日常生活で行うような耳かきや歯磨きも、異常や疾患がない場合は提供できますが、疾患をお持ちの場合はからだを気遣った断り方をしましょう。

断り方の例:「血が出たら困るので、今日は止めておきましょう」
お互いにとって不都合なことがあるかもしれないと伝えれば、「しょうがないか」と話がおさまります。少し年配のヘルパーであれば「老眼鏡を持ってきていないので、ケガをさせてしまうと怖いから止めておきますね」と伝えるのも1つの方法です。

CASE4.「髪の毛が伸びてきたから、散髪をしてほしい」

散髪やカミソリを使ったヒゲ剃りは「理容行為」のためやってはいけません。電気シェーバーを使ったヒゲ剃りならば可能なため、希望されている利用者さんにはそちらで対応してあげましょう。
訪問美容師など、プロの福祉理容をされている方をおすすめするのも良いですね。

断り方の例:「私では感覚が分からないので、プロにやってもらいましょう」
おしゃれになりたいのは高齢者の方も同じです。それなのに、変な髪形にされてしまっては困ります。誰だって上手い人に髪を切ってほしいはず。「私がやるよりプロにやってもらった方がおしゃれになりますよ」とお伝えしましょう。

ご自身での散髪を見守ることは問題ありませんので、その場合は目を離さないように気をつけてください。

CASE5.「マッサージをしてほしい」

利用者さんからからだのケアを頼まれることがあります。マッサージや、ストレッチ、リハビリ行為は利用者さんが日常的におこなう行為ではないとされるためお手伝いができません。これらの行為はできませんが、からだを拭くタイミングでひと工夫してみましょう。

断り方の例:「本格的なマッサージはできませんが、強めに圧をかけておきますね」
便秘気味の人ならお腹に「の」の字をイメージして拭いてあげて、お腹を温めてあげましょう。手首から腕の方向に拭いていけば、簡易的なリンパマッサージのような効果も期待できます。

外でのお散歩

通院・外出介助で「やってはいけないこと」と上手な断り方

通院時の車への乗り降りの介助や、利用者さんの外出時の介助です。ただし、どこに行くのにも常に一緒、というわけにはいきません。生活を送るうえで必要なことであればお手伝いができますが、不必要な外出は介護保険では行えません。まずは一覧表を確認してみましょう。

外出介助の「やっていいこと」「やってはいけないこと」
「やっていいこと」 「やってはいけないこと」
通院の往復の介助
(診療の待ち時間は保険対象外)
診療の待ち時間の話し相手
買い物目的での移動の乗車と降車
投票所への往復介助
(投票所の中にヘルパーは同行できません)
ドライブの付き添い
パチンコ、カラオケ、演劇など娯楽目的の外出
介護タクシーへの乗車と降車補助 外食の付き添い
家族への見舞い
(ただし、頻繁でない場合に限る)
友人宅への訪問の付き添い
行事への参加の付き添い
自立生活支援を目的とした散歩

CASE1.「診察を受けている間、病院で待っていてほしい」

訪問介護士は日々、決められた時間内で動いています。必要な時間が計算しづらい診察の待機時間を介護保険内でおぎなうことはできません。事務所によっては、利用者さんの実費でサービスを提供している場合もありますので、制度を確認しておきましょう。

断り方の例:「次の仕事があるのでできませんが、病院の中では別の方がご一緒しますよ」
たしかに次の方があなたの訪問を待っていることを考えると、急がないといけません。でも、それだけを伝えてしまうと、まるで優先順位を後まわしにされたと感じてしまう利用者もいらっしゃいます。必ず病院の中でもあなたをみてくれるプロがいると伝えて、安心させてあげましょう。

CASE2.「美術館へ行きたい」

美術館のほかにも、お祭りなどのイベント、冠婚葬祭への出席の外出介助も認められていません。なぜなら、日常生活を送るうえでは行く必要のない場所と判断されるためです。どうしてもとお願いされる利用者さんには自分は行けないと伝えたうえで、ご家族に連絡をしましょう。

断り方の例:「スケジュールがあるため私は一緒には行けませんが、ご家族に連絡しておきますね」
利用者さんの意思は必ずご家族に伝えてください。直接ご家族と連絡が取れない場合は、事務所を通して伝えてもらうようにしましょう。事前に言っておいてもらうことで、介護保険外のサービスで訪問介護士が同行できる制度がある事務所もあります。

迷った時には「ホウレンソウ」

事務所への「報告」。訪問介護士への「連絡」。ケアマネジャーやご家族への「相談」。
身体介護や外出介助の場合は、自分一人でなんとかしようとするのではなく、頼れる人に相談してみましょう。医療行為など素人では対処できないケースが多く、放っておくと利用者さんのからだの負担が大きくなってしまいます。

デイサービスなど通所介護を利用されている方なら、施設の看護師から適切な処置を受けているかもしれません。訪問介護で訪れた際には、処置されている箇所にはあまり触れないようにしておけば安心です。

こころとからだ

利用者さんの「からだ」とあなたの「こころ」2つの負担を一緒になくそう

利用者さんも介護士も同じ感情を持った一人の人間です。あなたが言われて嫌なことは、利用者さんにとっても嫌なこと。お互いが心地よい関係を築くためにも、「やってはいけないこと」に対する断り方のレパートリーを増やしておくことがたいせつです。利用者さんと良好な関係を築くことができれば、仕事に対するモチベーションも上がってきます。

お断りをする場面でも言葉選びやコミュニケーションが重要な課題。介護保険の改正で介護職の負担は増えても、上手な断り方を知っておけば、心の負担は減っていくでしょう。

生活援助でよくあるお悩みと上手な断り方は、次回のコラムで詳しくご紹介していきます。

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