見過ごしてはいけない高齢者の傾眠傾向。適切な対処方法は?

使えるハウツー

縁側でうたた寝するシニア男性

「傾眠(けいみん)」とは、ウトウトとまどろむ程度の軽い意識障害を表す看護の専門用語です。深く眠り込んでいるわけではないので、声かけや肩をポンとたたく程度の刺激で目を覚まします。日中ひんぱんにそのような状態になっていることを「傾眠傾向」と言います。

加齢によって自然に傾眠傾向が出ることもありますが、急に出た場合は薬の副作用や別の病気のサインである可能性も。老人ホームなどの介護現場ではよく使われる言葉ですので、介護職なら意味と使い方、対応方法を知っておきたいですね。

今回のコラムでは、高齢者の傾眠傾向について、なぜ・どんなときに起こるのか、また適切な対応方法をご紹介していきます。ウトウトしていることが多い利用者様に出会ったら、ぜひ思い出してみてくださいね。

傾眠傾向とはどういう状態?

居間でうたた寝するシニア女性

「傾眠」は、本格的に眠り込んでしまっているわけではなくその一歩手前、うつらうつらとしているような、軽い意識障害の状態を表す言葉です。意識障害には下記の4段階がありますが、そのうちではもっとも正常に近い状態です。

清明(せいめい・正常な状態)→
傾眠(けいみん・刺激を受ければ容易に覚醒する状態)→
昏迷(こんめい・強く刺激すればやっと覚醒する状態)→
昏睡(こんすい・強い刺激に対してもほとんど反応がなく、自発運動がない状態)

傾眠は意識障害としては軽いですが、これが多発すると食事の際に誤嚥しやすかったり、活動量が減ってしまうことで体力が落ち、関節や筋肉の動きが悪くなる廃用症候群の原因にも。また椅子や車いすに座ったまま傾眠になると、ずり落ちなどの事故が起こりやすくなるので要注意です。

傾眠傾向の原因

シニアに水分補給を促す介護士

脱水

高齢者は体に水分を貯めておく機能が低下しているので、脱水になりやすくなっています。体から水分が失われてしまうと、体を巡る血液の量が減るため脳への血流も減少。集中力が低下して、傾眠傾向になることがあります。

脇の下に手を当てて乾いていたり、手の甲をつまんでも皮膚がすぐに元に戻らないようなら脱水になっています。すぐに経口補水液を飲むなどして水分と電解質を補給しましょう。

発熱や代謝異常など

風邪など感染症のせいで発熱していたり、糖質や脂質などの代謝に異常が起きることで強い眠気が出ることがあります。原因となっている疾患が治れば傾眠傾向は治まります。いつもと様子が違うと感じたら、熱や血圧などのバイタルをチェック。異常があれば速やかに医療職につなげるようにしましょう。

薬の副作用

精神科の薬や胃薬、血圧の薬などたくさんの薬を飲んでいる場合、それらの効果が重複するなどして傾眠傾向を引き起こす可能性も。新しく薬を飲み始めた直後や薬を増やした後に症状が出たなら、薬の影響が疑われます。かかりつけの医師や薬剤師に相談してみましょう。

低血圧

食事の30分~1時間くらい後に強い眠気に襲われる場合は、食後性低血圧の可能性があります。これは消化のために血流が消化器系に集中し、その分脳への血流が減少することでめまいやふらつき、傾眠傾向を引き起こすもの。

このような方は食後急に活動することは控え、こまめに水分をとって低血圧を予防するようにしましょう。高血圧の治療のために降圧薬を飲んでいる場合は、医師と相談のうえ調整が必要かもしれません。

低血圧に悩むシニア女性慢性硬膜下血腫

傾眠傾向は「慢性硬膜下血腫」という病気でも見られます。頭をぶつけた際に脳と硬膜の間に血が溜まり、それが少しずつ大きくなって脳を圧迫するという病気で、頭を打ってすぐではなく、数週間から数ヶ月後に症状が現れるのが特徴。

頭をぶつけた覚えがなくても、傾眠と同時に頭痛や物忘れ、言葉が出にくいなどの症状が出てきたならぜひ検査を受けてください。溜まった血を抜くことで治療することができます。

認知症、パーキンソン病

認知症やパーキンソン病の症状のひとつに「アパシー(無気力)」というものがあります。注意力や集中力が低下することにより、何に対しても意欲が持てず、日中ぼーっとしていたり、ウトウトしていることが多くなります。

またパーキンソン病では、日中に過剰な眠気に襲われる「日中過眠」や急に眠ってしまう「突発的睡眠」といった睡眠障害があります。パーキンソン病の治療に使われる薬にも、副作用として眠気や睡眠発作が出ることがあるので、症状が強く出ている場合は主治医と相談して調整してもらいましょう。

老衰によるもの

老衰による体力の低下によっても傾眠傾向は起こります。また、残された時間が週単位になってきた終末期には、意識レベルが徐々に低下していく過程として傾眠傾向が強まるのも自然なこと。このような段階では、眠ることで体力を温存し、苦痛をやわらげていると考えられます。

傾眠傾向への対策

レクリエーションで体操する利用者と介護士

それまで普通に過ごしていた人が、明らかにおかしいと感じられる頻度で日中ウトウトするようになった。風邪をひいているわけでもなく、脱水でもない・・・そんなときは、大きな病気が隠れているかもしれません。

とくに慢性硬膜下血腫なら放っておくと危険です。60歳以上の高齢者に多く、アルコールを飲む人や、血液をサラサラにする薬を飲んでいる人は高リスクに。頭を打った覚えがなくても、寝ている間に壁などにぶつけて出血が始まっていることもあるので、気になるようならすぐに医療機関を受診してください。

認知症やパーキンソン病など脳の機能低下によって傾眠傾向が出ている場合、ウトウトしていたら放っておかず、積極的に声かけをしていきましょう。本人の得意なことやできることをお願いしたり、リハビリやレクリエーションに誘うなどは良いアイデア。音楽療法や回想法を試してみるのもおすすめです。脳への刺激を増やすことで、認知症の進行を遅らせることが期待できます。

そのウトウト、病気のサインかも?

利用者女性の血圧を測る介護士

「最近ウトウトしていることが急に多くなった」と感じたら、それは単なる居眠りではなく、意識障害の一種である「傾眠傾向」かもしれません。まずは熱がないか、脱水になっていないか、血圧が低すぎないかをチェックして。

認知症の影響で意欲を失っている場合は、積極的に働きかけて目を覚ましてもらい、脳や体を動かしてもらいましょう。活動量が低下した状態が続くと、認知症の進行が早まったり、食事が十分とれず低栄養になることも。そのまま体の機能が低下して寝たきりになる危険性も高まります。

ほかにも傾眠傾向が続けば誤嚥やずり落ちなど、介護事故のリスクが高まる懸念も。「寝ているだけだから」と放っておかず、原因に合わせて適切に対処をしていきましょう。

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