高齢者のパーキンソン病、症状への対応とケアのポイント

介護職の保健室

頭を押さえるシニア

「パーキンソン病」は、脳のドパミン神経が変性することにより、ふるえや転びやすくなるなど、さまざまな症状が出る病気です。70歳以上から有病率が急増し、高齢者に多いことも特徴のひとつ。

症状は体の震えや姿勢の不安定のほか、嚥下障害、認知症状、睡眠障害など多様です。また進行性なので、症状は時間の経過とともに重くなり、介護度も高まっていきます。

少しでも進行を遅らせるため、まだ体が動かせる初期の段階から、よく運動してリハビリに努めることが大切。今回は高齢者に見られやすい症状と、とくに注意したいケアのポイントをお伝えしていきます。

パーキンソン病の原因と治療法は?

パーキンソン病の原因は、中脳の黒質ドパミン神経細胞にαシヌクレインというタンパク質の凝集(=レビー小体)ができて変性することで、ドパミンが欠乏すること。遺伝性の場合40歳以下で起こることもありますが、基本的には50歳以上から患者がみられ、70歳以上になると急増します。

治療法としては、足りないドパミンを補う薬物療法が基本。ドパミンの前駆物質を補うL-ドパ製剤と、ドパミン受容体を刺激するドパミンアゴニストという薬が中心となります。どちらも抗パーキンソン薬として欠かせないものですが、それぞれに副作用があることも知っておきましょう。副作用が強く出る場合は、主治医と相談して調整します。

【L-ドパ製剤の副作用】
ドパミン受容体の過剰刺激により体が勝手に動くことがある。幻覚・妄想・吐き気・食欲不振・便秘・起立性低血圧など

【ドパミンアゴニストの副作用】
吐き気・食欲不振・便秘・起立性低血圧・源悪・妄想・眠気・睡眠発作・むくみなど

パーキンソン病高齢者に多い症状

飲み物がのどに詰まるシニア

姿勢の不安定

腰が極端に前屈したり、一方の肩だけが下がって斜めになる、首が垂れ下がる等の姿勢異常によって、生活動作がしにくくなります。前屈姿勢はベッドに横たわると解消するのが特徴です。

椅子から急に立ち上がってそのまま歩き出そうとしたり(ロケットスタート)、床に腰を下ろすときにいきなりドスンと腰をついたり(尻もち着地)といった行動もみられます。これらは転倒や骨折の危険性が高く注意が必要。安全な体の動かし方指導やリハビリで改善することがあります。

歩行障害

前屈姿勢で狭い歩幅で歩行する「小刻み歩行」や、足がすくんでなかなか前に出ない「すくみ足」、いったん歩き出すと急にスピードが速まり何かにぶつかるまで止まれない「加速歩行」があります。これらも転倒の危険性が高い症状です。

その一方で、「すくみ足でなかなか進めないのに階段の上り下りはスムーズにできる」、「体をほとんど自分で動かせない状態なのにキャッチボールは上手にできる」といった現象もあり、「矛盾性運動」と呼ばれています。

振戦(しんせん)・固縮・動作の鈍さ

「振戦(しんせん)」とは、自分の意思とは関係なく、体の一部が震えてしまうこと。手足の関節や筋肉が硬くなる「固縮」では、手足がスムーズに動かせず、さびた歯車を回すようなぎこちない動きとなります。また着替え動作や食事などの日常動作が鈍くなったり、会話のスピードが遅く小声で聞き取りづらくなることも。

認知障害

パーキンソン病の認知障害は、現実にはいないはずの人や虫が見えるなど、生々しい幻視が特徴。発症1年以内に認知障害が目立つ場合は、「レビー小体型認知症」と呼ばれますが、パーキンソン病の経過中に徐々に認知症が現れた場合には、「パーキンソン病」の症状の一部と考えます。呼び方は違っても、両者は同じ原因による同じ病気です。

嚥下障害

食べ物を噛んだり、飲み込んだりする動作が遅くなり、食べることが難しくなっていきます。ここに無気力や倦怠感などの症状も重なると、水分や食事の摂取量が少なくなり脱水や低栄養を起こしやすくなります。柔らかくとろみをつけた食事にする、上体を起こし顎を引き気味にして飲み込みやすい姿勢をつくるなど、栄養不足にならないための工夫が必要です。

症状が進行すると食道や胃の働きも悪くなっていくため、より嚥下障害が強まります。飲食物やつばが気管に入るのを防ぐためには、胃瘻(いろう・チューブで胃に直接食べ物を流し込む処置)などの経管栄養を行うことも選択肢に入ってきます。

便秘・排尿障害

便秘や排尿障害(主に頻尿)は、全身の自律神経がうまく働かなくなることが原因で起こります。また便秘は抗パーキンソン薬の副作用でもあるため、8割以上のパーキンソン病患者に便秘症状がみられ、QOL(生活の質)を低下させています。

できる限り食事や運動で便通を促しますが、必要に応じてビフィズス菌製剤や下剤・浣腸剤を使用し、腸閉塞などのトラブルを予防します。

脱水

一般的に高齢者は脱水になりやすいですが、パーキンソン病を患っているとさらに脱水になりやすくなります。筋肉が痩せているので水分をためておくことができないうえ、嚥下障害や頻尿により、水分を摂る量が少なくなっていることが大きな要因です。

パーキンソン病の高齢者が脱水になってしまうと、体が固まって動かなくなる症状が悪化し、薬の副作用も強く出てしまいます。ふらつきが強くなり転倒のリスクも増加。認知機能も低下し、幻視や妄想など混乱を起こすこともあります。

浮腫(むくみ)

パーキンソン病の高齢者は、筋肉が硬くなっているうえ椅子に座ったまま動かないことが多いために、脚にむくみが出やすくなります。予防のために脚を動かしたり、マッサージを行うことなどが有効です。

皮膚のトラブル

その他高齢のパーキンソン病患者に多い症状として、全身のかゆみ、乾燥性皮膚炎、帯状疱疹などの皮膚疾患が挙げられます。発疹などの異常が見られたら、皮膚科医の診察を受けて治療しましょう。また皮膚を清潔に保ち、栄養不足にならないように気をつけることも大切です。

介護のポイント笑顔のシニア

転倒防止

パーキンソン病では、転びそうになっても手をついたり、近くのものにつかまろうとする防御反射がみられないことがあります。すると頭部や顔面を強く打ち付けたり、骨折などの大けがに発展しやすいので、転んだときに衝撃をやわらげるための対策をしておきましょう。

たとえば床マットや家具の角などにクッションをつけておく、膝やお尻にプロテクターをつける、手すりや滑り止めをつける、ヘッドガードつきの帽子を被る、等々。頭部を守る保護帽はいろいろなデザインが市販されていますので、オシャレも兼ねて楽しみながら着用できます。

脱水防止

パーキンソン病ではとくに脱水になりやすく、脱水になるとパーキンソン症状が悪化します。日頃から水分摂取量、尿の量や濃さをチェックしたり、適度にエアコンを使って室温が高くならないように注意するなどの対策をしましょう。

なんとなく元気がない、食欲がない、うつらうつらしているなどの症状があれば、舌や脇の下が乾燥していないかチェックを。脱水が疑われるなら、OS-1などの経口補水液で水分を摂ってもらいます。口から飲めない場合、または意識が混濁している場合は、点滴が必要かもしれませんのですぐに医療につなげるようにしましょう。

病気に負けず明るく前向きに

パーキンソン病というと、不治の病というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。初期~中期のうちに体をよく動かしておくことは効果的ですし、病気が進行してからも、薬を適切に使いリハビリに努めることでQOLの改善を目指すことができます。

症状においても、「転びやすい」「便秘になりやすい」「脱水になりやすい」など高齢になれば誰もが当てはまるものも多いため、通常のケアをより注意深く行うことを基本に、その人の症状に合わせた対応を組み合わせていけば大丈夫。

生活に制約はあっても、日常に楽しみを見つけることで明るく前向きに過ごすことができるのは、他の高齢者と何ら変わりません。病気と上手に付き合いながら、日々を穏やかに充実させていただけるよう、きめ細かいケアを行っていきましょう。

参考文献:「パーキンソン病・パーキンソン症候群の在宅ケア」編集代表:佐藤猛(中央法規出版)

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